私は高校時代に人生をがらりと変える大きな決断をしました。それは一流の研究者を目指し、日本から飛び立つという選択です。そして高校卒業後に米国の大学へ入学し、今も当時の夢の延長線上で日々楽しく研究に励んでいます。
高校時代というのは多くの人にとって将来について真剣に考え悩み始める時期なのではないでしょうか。そのような時期を過ごすにあたり慶應義塾高等学校(塾高)は、じっくり将来像を描き、夢の実現に向けて準備を始める時間と余裕を与えてくれます。例えば関心がある事を心行くまま追究するのに、約二ヶ月ある夏休みや一ヶ月以上ある春休みはもってこいです。また日本の大学受験戦争に毒されておらず、好きな事を興味の赴くまま学べる環境が整っています。
そんな中、独立自尊をモットーに掲げる塾高の校風にも後押しされ、「人生一度きり、自分の一番得意な事(たぶん数学?)を極めたい。数学の世界一は米国に集まっているらしい。だったらなるべく早いうちから米国の大学で学ぼう。」 そう私が決断したのは高校一年の春休み頃だったと思います。そして当時担当だった英語の先生にも相談し、部活に励む傍ら米国大学受験の準備を着々と進めました。部活引退後の長い夏休みを利用し、試しに一ヶ月間、独りで米国に滞在した事も良い思い出です。
また高校二年の時にはこんな事もありました。少し数学の勉強が進んでいた私に、数学の先生は、「僕の授業聞いてなくていいから、これでも読んでなよ」と言って大学レベルの数学の専門書を渡してくれたのです。それを聞きつけたもう一人の数学の先生も沢山の面白い専門書を譲ってくださり、私はそれらを数学の授業中や暇な時間に読みふけりました。このような自由な環境で育まれた数学の力は今も活きています。
高校時代の努力も実り、私は海を越え、日本の大学では考えられないような柔軟な教育システムの下で水を得た魚のように学問に没頭しました。そして大学院では尊敬する師に巡り会い、世界トップで活躍する研究者達と一緒に仕事をする幸運にも恵まれてきました。少し周りの人とは違った道へと進みましたが、最高の選択をしたと自信を持って言えます。
日本は世界の中心ではありません。皆さんも、もっと積極的に日本の外へも目を向けてみませんか。可能性に満ちた若い皆さん一人一人が将来像を描くにあたり、海の外に果てしなく広がる膨大な選択肢に全く目を向けないのは非常にもったいないと思うのです。周りの人を基準にせず、自分で考え抜き、時には特別な道を歩む事も恐れないでください。
人間誰しも道を切り開く事、創造する事に喜びを感じます。そして人生という一番大切な道こそ、とことん自分で満足の行く形に創り上げていく努力をするべきではないでしょうか。その大事な芽を育てる高校時代、皆さんが後悔の無い充実した時を過ごされる事を願って筆を置きたいと思います。